トロント大学関連施設、サニーブルック・リサーチ・インスティチュート(Sunnybrook Research Institute)で、世界初でALS患者の脳にMR -Guided Focused Ultrasound(MRガイド下集束超音波)を用いて、血液脳関門を一時的に開口し、治療薬剤の投与に成功しました。ご存じのように血液脳関門はウイルスやバクテリアなど、害となるものが脳内に入り込まないように脳を守ってくれている重要なバリア機構です。 しかしながら、そのバリアのために薬剤が脳内の必要な場所まで届かないという問題に悩まされてきました。
サニーブルックのこのフェーズ1クリニカル・トライアルの第一番目の患者はBill Traynorさん(70歳)で、今年の5月にトライアルの治療を受けています。その後彼は発声が良好になり、歩行も日々向上していると報告されています。その後5人の患者さんのトライアルも予定されています。 サニーブルックは世界的にも有名な最先端医療研究所で、アルツハイマーや本態性振戦など脳神経変性疾患を対象に集束超音波(FUS)を用いた最先端治療法で、ここ10年ほど医療ニュースを賑わせている研究所でもありますので、読者の中にもその名前は何度か耳にしている方々もいらっしゃるかもしれません。
ヘルメットを手にしているDr. Kullervo Hynynen
カナダのニュース記事によりますと、トライアル患者の第一番目ビルさんは、まずALSの抗体治療剤である免疫グロブリンの点滴を受け、そしてマイクロバブルの注入を受けました。そしてサニーブルックの脳科学者Dr. Hynynen (ハイニンネン氏)の発明したヘルメットの中に頭を入れました。そのヘルメット内には4000個ものトランスデューサーが設置されてあり、それを通して集束超音波が運ばれます。 その音波により、ターゲットとなる場所の小血管の中にあるマイクロバブルが拡張したり収縮したりします。そのマイクロバブルの伸びたり縮んだりの動きにより、ターゲット点の特定場所の脳関門が開かれていくのです。その特定の一点こそが血管内で循環している免疫グロブリンが通過しなければならない治療上極めて肝心の場所(ALSで侵されている運動ニューロンの場所)なのです。 患者はMRI機器の中に横たわっているので、集束超音波が脳のどの一点に当てられているのか、正確なスポットに当てられているのかが、Real Timeで(同時に)観察することが可能です。 将来はMRに頼らずにも正確なガイダンスでFUSがデリバリーできるよう研究が続けられており、近未来中にはより安価な治療法が出てくるかもとも示唆しています。従来の方法では、治療剤を患者に投入しても、たったの0.01%しか脳関門を通過できず、脳内に届いたのは皆無に近かったとのことです。サニーブルックのALSクリニックのディレクターであるDr. Zinmanは、「これはALSコミュニティにとって、とても興奮すべき時で、医療の大飛躍です。ALSにとってGame Changerとなり得る」と述べています。 20年かけてヘルメットを研究開発した脳科学者のハイニンエン医師は、「このヘルメットでは超音波の量と焦点をを患者にとって適切に、正確に制御することができます。脳のそれぞれの箇所が各々、適切に受けられるように制御できるのです。そういうことが可能な医療機器デバイスは他にありません。」と言及しています。このような、より個別医療的な方法により、世界中のALSの患者さんたちが恩恵を受けられる日々が近づいていることを願って止みません。
Forcused Ultrasound Foundationからこの臨床試験を受けたビルさん本人のお話が聞けます。
この会話の翻訳はこれです。診断を受けた過程からこの臨床試験を受けた後のことなどがご本人から語られています。
2025年5月のニュースではこの治療方法(FUS)が紹介されています。https://hospitalnews.com/world-first-canadian-innovation-enhances-drug-access-to-brain-areas-affected-by-als/
カナダのテレビ NEWSからもこの画期的な治療法(FUS)の紹介があります。‘A very exciting day’: Canadian design may revolutionize the way ALS is treated
2025年8月27日 報告者 Nobuko Schlough (伸子シュルー)米国@P-ALS