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[ 米国 スイス ] 期待されるイントラボディ(細胞内抗体): 画期的な治療法か?

去年の秋にスイスのチューリッヒ大学のALS研究者たちとバイオテック会社Mabylon社がリサーチグラント(研究基金)を米国ALS協会と米国Target ALSファンデーションの両方から受賞しました。合計受領額は59万2千ドル (約8823万円)で、リサーチ課題はALS治療を目的とする患者由来のイントラボディの開発です。

イントラボディとは聞き慣れない言葉ですが、アンチボディ(抗体)の一種です。抗体はご存じのように免疫システムによって産出されるタンパク質で血液内を巡回し、体内に侵入した細菌やウイルスなどから体を守ってくれています。 その抗体の一種であるイントラボディとは「細胞内抗体」とも和訳されています。つまり体内の細胞内で働いてくれる抗体ということを意味しています。従来の抗体は細胞の表面上のタンパク質に働きかけますが、このイントラボディは細胞内のタンパク質をターゲットにできます。

近年ますます研究が盛んに進められているイントラボディを利用した治療法は、がんや、HIV,自己免疫疾患、そしてALSを含んだ神経変性疾患などの難病を治療するにあたって、より効果的なアプローチの新しい戦略法となり得ると大いに期待されています。

細胞内のタンパク質、特に細胞の情報伝達を担うタンパク質の異常によって異常な凝集(かたまり)が細胞内にでき、様々な疾患の発症となることは、これまで長年の間数多く報告されています。 読者やALS患者の方々が、異常なタンパク質のかたまりと聞くと、TDP-43というあのタンパク質の名前を思い浮かぶかもしれません。TDP-43の異常なかたまりは全ALS疾患者(家族性、孤立性両方を含む)の95%以上(約98%とも報告されている)に見られることは、以前から知られています。

このイントラボディの強みは、細胞内で活躍できることだけでなく細胞内の特定のタンパク質(標的のタンパク質)にのみくっついて働くことができます。どのようにしてイントラボディを細胞内に入り込ませることができるのかと不思議に思われると思います。ここ数年で研究者のテクニックが進歩し、イントラボディは細胞内の細胞質の中で発現できるようになりました。 その手順は、異常なTDP-43タンパク質をターゲットとした例を取りますと、最初にTDP -43の特定の部位を認識するモノクローナル抗体から断片を抽出しそれをコードする遺伝子を細胞内にウイルスベクター(運び屋)で注入します。そして細胞内でその遺伝子で翻訳されてイントラボディを発現させるという手順です。発現されたタンパク質イントラボディは、標的である異常タンパク質をピンポイントに狙い撃ちしその機能を阻害し、TDP-43凝集体を減少させます。

TDP-43は正常には遺伝的情報が収納されている細胞核の中に存在し、タンパク質の生産の際にDNAが読まれたりテンプレート(雛形、定型例)として使用される時に生産される仲介分子であるメッセンジャーRNAのプロセスに関与しています。ところがALS疾患においてはある特定の遺伝子の突然変異によりTDP-43タンパク質は誤った折りたたみをし、細胞核の外で、液体で満たされている細胞質内で、毒素のあるかたまりを蓄積していきます。その毒性は神経細胞の機能を妨害するものです。

Mabylon社によれば、「ヒト由来の抗体は、ヒト化動物や人工ライブラリーから得られた抗体に比べて治療効果が高いということです。(冒頭に申し上げた、)単数でなく複数の機関からのグラントの受賞はこのアプローチが大いなる治療の可能性を秘めていることを立証しています。」とMabylon社代表はALS News Todayのインタビューで述べています。このトピックについてはリサーチの進捗を定期的にチェックしていくつもりです。

ALS Associationのサイトから

用語

TDP-43:  TAR DNA-binding protein 43:TDP-43はTARDBPという遺伝子によってコードされるタンパク質

ALS News Todayの記事

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/35/4/35_485/_article/-char/ja

https://en.wikipedia.org/wiki/TAR_DNA-binding_protein_43

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/35/4/35_485/_pdf/-char/ja

レポーター: 伸子シュルー(Nobuko Schlough)   米国 2025年2月26日

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