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iPS細胞の実用化開発アップデート2026

最近のiPS細胞技術を使った治療アップデートです。ALSの治療にも期待されている医療技術の成果の現況です。

2026年3月6日、世界初のiPS細胞由来の再生・細胞医薬品2剤、パーキンソン病治療薬「アムシェプリ」、心不全治療機器「リハート」が日本にて承認されました。いずれも「条件および期限付承認」にて承認されています。これが契機となり、iPS細胞由来のALS治療薬開発が加速することが期待されます。2剤の承認内容と適用された承認制度、また、iPS細胞技術により見出された既存薬ロピニロールのトピックスについてご報告します。

1.世界初のiPS細胞由来の再生・細胞医薬品

(1)アムシェプリ(住友ファーマ)

アムシェプリは非自己iPS細胞を分化誘導することにより製造した、ドパミン神経前駆細胞で、その効能は、「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」となっています(レボドパは、脳内に移行した後ドパミンに変わり、パーキンソン病の症状を改善する薬)。パーキンソン病では、中脳黒質のドパミン神経細胞が減少し、被殻へのドパミン供給が不足することで、運動症状(手足の震え、筋肉のこわばり等)が引き起こされます(ドパミンは脳内神経伝達物質の一つ、被殻・中脳黒質はいずれも脳の部位の名称)。アムシェプリは脳手術により、被殻に移植されます。

治験では、6名のパーキンソン病患者のうち、4名に症状の改善が認められ、医療画像技術にて、被殻のドパミン神経活動の増加が確認されています。本年5月13日に患者1人あたり5530万6737円の薬価が決定され、同月20日から保険適応が開始。実際に治療が始まるのは今秋頃とみられると報告されています。

【パーキンソン病治療の現状】

 パーキンソン病治療は薬剤治療がメインとなっていますが、病状の進行に伴い、薬の作用時間が短くなったり、薬の副作用により体がクネクネと動いてしまう、中等度以上の振戦(ふるえ)などの症状が出現することがあります。このような症状に対して内服薬での調節が難しくなった場合、手術療法を行うことがあります。

外科的治療には、高周波凝固術(RF、脳深部に凝固針を挿入し、高周波で機能的に異常な部位を熱凝固する治療法)、深部脳刺激療法(DBS、脳内に電極を埋め込み、胸部に植え込まれた装置と接続し、持続的に電気刺激を送る治療法)、収束超音波(FUS、MRIの中で治療を行い、頭蓋骨を透過する超音波を多方向から一点に集中させ、ふるえの原因となる脳内の標的部位を熱凝固する治療法)などが行われています。

詳細は下記を参照ください。

承認内容について:住友ファーマ、日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」の製造販売承認取得に関するお知らせ2026年3月6

本剤の治験詳細およびiPS細胞由来のALS治療薬開発について:ALS専門情報、iPS細胞医療の実用化~神経変性疾患の再生医療~iPS細胞を用いたALS治療のClinical Trial Phase1が米国で認可2025.6.24

 薬価、保険適応について:日本経済新聞、iPS細胞薬の薬価5530万円 パーキンソン病向け、保険適用へ2026年5月13日

パーキンソン病の侵襲的治療について: 中部医療センターふるえ・パーキンソン病センター、パーキンソン病・本態性振戦の主な治療方法

(2)リハート(クオリプス)

リハートは、ヒト(同種、非自己)iPS 細胞から分化誘導させた心筋細胞をシート状に形成したヒトiPS 細胞由来心筋細胞シートで、その効能は、「薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な虚血性心筋症(狭心症や心筋梗塞などの発症により、心臓への血流が低下し、心機能が悪化する病気)による重症心不全の治療」となっています。移植手術では、左側開胸手術を基本とし、心筋細胞シート3枚が心臓表面に順次移植されます。

治験では、虚血性心筋症の患者8名に、心筋シートの移植を行い、移植から1年後全例に症状の改善が認められ、運動機能の回復も認められたとしています。保険適応については、公的保険適応が今夏にも決定する見通しとの報告があります。

【重症心不全治療の現状】

重症心不全とは、動いた時の息苦しさや、だるさ、むくみなどが著明で、そのために何度も入退院を繰り返す状態をいいます。薬物治療として、心臓保護薬、利尿薬、強心薬、不整脈等が、侵襲的治療として、不整脈治療のためのカテーテルアブレーション、ペースメーカー植え込み術、冠動脈治療のためのカテーテルインターベンション、バイパス術などが行われていますが、これらの治療を行っても、症状が改善しない患者は心臓移植を考慮することになります。心臓移植は年間約40人に行われていますが、待機日数が1000日を超える方も多く、ドナーが不足している状況にあります。

詳細は、下記を参照ください。

承認内容について:厚生労働省、再生医療等製品の取扱いについて(リハート)

治験の詳細:ALS専門情報、世界初の神経変性疾患へのiPS細胞医療の実用化:神経変性疾患パーキンソン病治療薬の承認申請 2025.8.7

保険適応について:時事通信、iPS製品、初の保険適用 パーキンソン病治療で―中医協2026.5.13 

重症心不全について:日本循環器学会、一般のみなさまへ、各疾患のご案内

(3)条件及び期限付き承認について

①制度の概要

条件及び期限付承認は、2014年に制定されたもので、有効性が推定され、安全性が認められた再生医療等製品(再生医療や細胞医薬、遺伝子治療、ウイルス療法など)を、条件や期限を設けた上で早期承認する仕組み。再生医療等製品は細胞や遺伝子を用いることから製品が不均質であることが多く、また、希少な疾患を対象としており少数例を対象とした治験で評価せざるを得ないことが多いため、従来のような承認制度を適用すると、有効性を確認するためのデータの収集・評価に時間を要すると考えられたことが背景にあります。本制度で承認される再生医療等製品に関しては、基本的に保険適用され、国民皆保険制度で使えるようになりますが、製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証した上で、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得することになっています。

詳細は、再生医療等製品の条件及び期限付承認とは市販後の有効性の確認に課題も 2022.08.02 を参照ください。

②本制度の現状と課題

iPS細胞を使った医薬品の承認は今回が初めてとなりますが、それ以前に、6製品が承認されています。そのうち、2つは有効性を示せずなどで販売を終了、3つがデータ収集中、1つが本承認申請中となっており、現在のところ、正式承認を得た製品は存在しない状況です。

通常の治験では、同一試験内で被験者を無作為に治療群と対照群(プラセボ群または標準治療群)に分け、治療効果を科学的に評価する試験方法(ランダム化比較臨床試験、RCT)が行われます。一方、市販後の試験では、これが難しいことから、市販後使用時のデータと外部対照(他の試験のデータ、例えば、別の試験のプラセボ群データ。日常の臨床現場で得られる市販品非使用患者のデータ等)との比較となるため、RCTのようなバイアス(偏り)の低い評価が難しいことなどが背景にあるようです。

詳細は、前出のリンクおよびiPS細胞で了承「条件・期限付き承認」とは 細胞医薬の実用化後押し 日本経済新聞2026年2月20日 を参照ください。

③アムシェプリの製造販売後の臨床試験計画

多施設で製造販売後臨床試験(フェーズ4:P4試験)を実施した上で、7年以内に改めて申請し、本承認を取得する予定。実施施設は7施設、65歳以上5例を含む、35例を予定している。詳細は住友ファーマ・木村社長 アムシェプリ承認「非常に大きなマイルストーン」本承認へ新たなスタート誓う2026/03/09 を参照ください。

④リハートの製造販売後の臨床試験計画

7年の期限内に実施する製造販売後承認条件評価では、本品の使用成績調査から得られる75例のデータに対し、別途実施する前向き臨床研究における本品非投与群150例を外部対照として設定し、使用実態化における本品の有効性・安全性を検証することになったことが報告されています。詳細はiPS細胞由来2製品 7年間の条件及び期限付承認へ 住友ファーマのアムシェプリなど 厚労省部会が了承2026/02/20 を参照ください。

2.ロピニロールについて

  ロピニロールは、現在パーキンソン病治療薬として使用されている医薬品です。ALS患者からiPS細胞技術により作成された、ALS病態を再現した運動神経細胞に、米国にて承認済の薬剤1232種を作用させ、選ばれたものです。日本では、治験Ⅱ相まで終了し、これまでパーキンソン病治療薬として使用されてきた投与量にて、有効性が示唆されています。本年3月19日のALS専門情報に概要が報告されていますが、トピックスを3点報告します。

(1)2006年内に治験第Ⅲ相開始の方針を明らかに

 2026年3月17日に、都内で開かれた日本疾患幹細胞学会の講演で、ケイファーマ取締役で慶応大の岡野栄之教授が、今年中に「第Ⅲ相(最終段階の治験)を始める準備をしている」と話されたことが報告されています。ロピニロールは2020年代後半の実用化を目指していますが、年内には最終治験が開始される方針のようです。

詳細はALS患者にパーキンソン病の薬を投与する治験、最終段階に…iPS創薬企業が年内開始へ2026/02/17 を参照ください。

(2)ALS治療として、顆粒タイプを開発

  現在、ケイファーマからロピニロールのライセンスを供与されたアルフレッサファーマにより、ロピニロールの新規剤形である徐放性顆粒製剤(コード名KA-2301)の治験第Ⅰ相が進められています。本試験は、これまでの治験で使用されてきたロピニロールの徐放剤である、レキップCR錠との類似性を確認することを目的としています。本試験が終了すれば、ロピニロールの第Ⅲ相試験は徐放性顆粒剤により進められるものと考えられます。

試験の詳細はJRCT KA-2301の第I相臨床試験 -日本人健康成人男性に対するレキップCR錠を対照としたクロスオーバー試験-を参照ください。

(3)米国の治験相談にて、良好な回答

 ケイファーマより、本年1月9日にKP2011(ロピニロールのコード名)の米国FDAとの、pre‐INDミーティング(治験開始前の正式な相談)の回答を受領したと報告されています。報告の中では、今後米国で進めるALSを対象とする後期臨床試験計画および承認申請に向け、極めて有 益な示唆が得られました。との記載があり、米国でもロピニロールの開発が進むものと期待されます。

詳細は、ケイファーマ、KP2011の米国FDA pre-IND ミーティングリクエストへの回答受領のお知らせを参照ください。

2026年5月18日 報告者:橋口 裕二@P-ALS

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