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日本におけるALS治療薬の開発状況 No2

前回は高用量メコバラミンについてでしたが、今回はロピニロールについて、レポートします。

医師主導治験(PhaseⅠ/Ⅱa試験)にて、ALS患者13名にロピニロール、7名に偽薬を6か月間内服投与し、その後6か月間は全ての患者さんがロピニロールを内服しました。ロピニロールの服用量は現在パーキンソン病治療として服用できる最大量である1日16mgとなっており、すべての患者さんが服用できたとのことです。最初の6か月後のALS評価ツール(ALSFRS-Rスコア、言語、嚥下など12項目の機能評価)では、ロピニロール投与群で 5.9±4.1ポイントの低下に対し、偽薬群では15.6±8.8ポイント低下でしたが、統計処理では有意差は確認されませんでした。より詳細な比較のため、ALSで主に障害されてしまう筋力や活動量を数値化して正確に測定する方法を導入し、最初の6か月後を評価したところ、複数の筋肉における筋力低下や活動量の低下が有意に抑制され、さらに呼吸状態が悪くなるまでの期間もロピニロール群で有意に延長されたとしています。特筆すべき結果として、1年間の試験期間中にロピニロール投与群はプラセボ群と比較して生存期間を27.9週(約7か月)遅らせる可能性があることが分かったとしています。

今後の治験の予定については確認出来ていませんが、株式会社ケイファーマは、同社の2023年3月1日付プレスリリースにて、アルフレッサファーマ株式会社との間で、ALS治療薬としてのロピニロールの日本における、開発権・製造販売権の許諾契約を締結したと報告しており、今後は企業主体にて治験が行われていく可能性が考えられます。

治験と並行して、参加されたALS患者さん20名全員から、各々のiPS細胞を作成、脊椎運動ニューロンに分化・誘導しロピニロールの効果を調べています。その結果、ニューロンにおいて、ロピニロールの効果が高かった患者さんほど、治験での効果も良好であったことから、iPS細胞での結果が、薬剤の効果を予測できるツールとなる可能性が示されたとしています。さらに、ニューロンを用いた検討からロピニロールが神経細胞内のコレステロール合成を制御することにより抗ALS作用を発揮していることを見出したとしています。

iPS細胞技術を用いたALS治療候補物質の評価技術開発も進められており、東レ株式会社は同社2023年5月29日付けニュース(注4)にて、愛知医科大学との共同研究で iPS細胞技術をもちいたALSに対する新薬候補物質の薬効を評価する基本技術を開発したと報告しています。ALS患者さんの臨床・遺伝子解析から、病気の進行パターンが緩徐進行型、単調進行型、シグモイド型、急速進行型の4つに分類され、その割合が明らかにされていますが、30人のALS患者さんの iPS細胞から、この4パターンの運動神経細胞を作成、これにより各型に適した治療薬を評価することができるとしています。

注1 パーキンソン病は中脳の黒質と呼ばれる部分の変性により、ドーパミンが欠乏し、手足の震え、筋肉のこわばり、動けなくなるといった運動の制御障害の症状が現れる疾患。罹患率は人口10万人当たり100~150人、40~80歳で発症、好発は50~70歳代。

注2 ロピニロールは、パーキンソン病治療薬として、2006年10月にグラクソ・スミスクライン社が製造販売承認を取得、同年12月に販売開始(商品名:レキップ)。ドーパミン受容体に結合し、ドーパミンと同じような働きをすることにより、パーキンソ病の症状を抑える。現在は、多くのメーカーからジェネリック医薬品も販売されている。錠剤、徐放(CR)錠、テープ(ジェネリックのみ)がある。

注3 iPS細胞創薬と医療ビッグデータが導くALSの新たな治療薬開発。慶応義塾大学、K Pharmaプレスリリース(2023年6月2日付)

注4 TORAY ニュースルーム 筋委縮性軸索硬化症(ALS)に対する薬効評価技術の確立について(2023年5月29日付)

2023年11月18日 報告者 橋口裕二

この記事は国立病院機構千葉東病院 武田貴裕先生のご厚意を受け内容を見ていただいております。

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