ALS専門情報

世界初の神経変性疾患へのiPS細胞医療の実用化:神経変性疾患パーキンソン病治療薬の承認申請

本年6月24日付けALS専門情報にて、iPS細胞を用いたパーキンソン病の再生医療について報告しました。本剤について、本年2025年8日5日付けにて製造販売承認申請を行ったことが報告されました。承認されれば、世界初のiPS細胞を使った神経変性疾患治療薬となります。これを契機に、ALSや他の神経変性疾患の再生医療開発がさらに 加速することを期待します。また、上記専門情報にて、iPS細胞を使った虚血性心筋症を適応とした「心筋細胞シート」の臨床試験(治験)についても紹介しましたが、本剤が投与された8名全員の重症度が改善されたとする報告がありましたので、こちらについてもご紹介します。

1. 日本における「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」の製造販売承認申請

住友ファーマは2025年8月5日ニュースにて、上記をプレスリリースしています。以下はhttps://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20250805-2.htmlより一部抜粋しています。

「住友ファーマ株式会社(本社:大阪市)及び株式会社RACTHERA(本社:東京都中央区)は、進行期パーキンソン病患者のオフ時*の運動症状の改善を効能・効果として、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(国際一般名「raguneprocel」、読み方:ラグネプロセル)の国内における製造販売承認申請を2025年8月5日付で行いましたので、お知らせします。申請者は、住友ファーマ株式会社となります。」

「このたびの申請は、京都大学医学部附属病院が実施し、2025年4月にNature誌に掲載された医師主導治験のデータに基づくものです。本製品の製造はS-RACMO株式会社(本社:大阪府吹田市)が、販売は住友ファーマ株式会社が行う予定です。なお、本製品は先駆け審査制度*の指定を厚生労働省より受けており優先審査の対象品目となります。」

ご参考

・非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(国際一般名「raguneprocel」)

   ドパミンは神経伝達物質の一つで、ドパミン神経細胞の中で作られます。ドパミン神経前駆細胞は、ドパミン神経細胞に分化する手前の細胞です。本製品は、非自己iPS細胞から分化誘導させ製造した、非凍結状態のドパミン神経前駆細胞です。

・iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の製造技術について

本製品は、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団が提供しているiPS細胞ストックを原材料として、国立大学法人京都大学等が保有するiPS細胞からの分化誘導及び製造技術を用いています。また、製造工程の一部において、株式会社カン研究所(現エーザイ株式会社神戸研究所)で発見されエーザイ株式会社が保有する細胞純化技術を活用しています。」

進行期パーキンソン病患者のオフ時:パーキンソン病が進行すると、薬が効く時間が短くなり、次のお薬を飲む前に効果が切れるウェアリング・オフ現象など、1日のうちで薬の効くとき(オン)と効かないとき(オフ)がみられるようになります。https://www.kyowakirin.co.jp/parkinsons/howto/complications/index.html

先駆け審査制度:世界に先駆けて日本で開発され、早期の治験段階等で著明な有効性が見込まれる革新的な医薬品等について、優先相談、事前評価、優先審査等を行い、早期の実用化を目指すもの。https://saiseiiryo.jp/faq/detail/post_9.html

  2.  iPS心筋シート移植、8人全員の重症度改善…大阪大チーム「新しい治療法として充分な手応え」

 本年2025年4月に日本で、虚血性心筋症を適応とした「心筋細胞シート」が大阪学発のベンチャー企業「クオリプス」より承認申請されています。これは、iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作り、厚さ0.1ミリのシート状に加工したものです。これまで試験の安全性については、公表されていましたが、患者の経過を観察し、具体的な症状の改善についても明らかにしたとのことです。2025年8月3日付け読売新聞オンラインhttps://www.yomiuri.co.jp/science/20250802-OYT1T50184/より一部抜粋

 「治験は2020年~23年に阪大と順天堂大、九州大、東京女子医大の病院で実施された。8人は心臓の働きが悪くなる「虚血性心筋症」の患者。国内の心不全診療指針で採用されている4段階の重症度分類2番目に重い「3」(軽度の活動でも疲労や動悸などを生じる)の患者を対象とした。」「健康な人のiPS細胞から心筋細胞を作り、厚さ0.1ミリのシート状に加工し複数枚を心臓に貼り付けた。チームによると、シートの移植から1年後、4人は通常の活動では症状が出ない重症度「1」、別の4人は安静時には無症状の「2」にそれぞれ改善した。心臓に負荷がかかるような運動をどこまでできるかの目安となる運動時の酸素摂取量は、8人平均で2割ほど増加した。6分間の歩行距離も同様に1割程度増え、運動機能の回復がみられた。心臓から全身へ血液を送る能力の改善は各患者でばらつきがあったが、不整脈など重篤な問題はなかった。」「チームの澤芳樹・阪大特任教授(心臓血管外科)は「患者の生活の質は大幅に良くなった。新しい治療法として十分な手応えを持っている」と話した。」と報告されています。

2025年8月06日 橋口 裕二@P-ALS

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