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イスラエルのニューロセンス・セラピューテックス社のプライム C薬 、今年中期には第三相トライアル開始か。

ALSの第一選択療法となり得る可能性を秘めていると期待される薬剤がいよいよフェーズ3のトライアル開始準備中とのニュースが発表されています。

Prime Cと呼ばれるこのトライアル中の薬剤は徐放性経口剤で、米国で個別に承認されている薬剤二つを固定容量で混合したものでALSを対象としたものです。一つは抗炎症剤セレコキシブで、もう一つはシプロフロキサシンという抗生物質薬です。Prime Cは、特に初期段階の患者において、神経破損を大幅に減少させ疾患の進行を遅らせているということが報告されています。 

そのメカニズムの説明として、Prime Cは、ある特定のマイクロRNA合成を制御し、選択的に酵素COX2を阻害することにより脳神経炎症を減少させ、鉄蓄積を調節することで、ALSの進行を相乗効果的に阻止するとのことです。Prime Cは米国食品薬品管理局(FDA)と欧州医薬品局(EMA)の両方からOrphan Drug Status(希少疾患医薬品としての地位)を与えられており、NeuroSense社は第三相トライアルに向けて本年中期開始を目指し準備中とのことです。

2017年に設立されたニューロセンス社のリサーチパートナー

NeuroSense社のサイトによりますと、ステムセル技術を用いた最先端のALSとアルツハイマー研究で世界的に有名な米国University of Southern California大学のDr. Ichida率いるIchida Stem Cell Labとの協同研究でも大いに期待される結果が出ているそうです。ALS患者由来のiPS細胞を用いて作られた運動ニューロンにPrime Cを与えると、それら運動ニューロンの生存率が大幅に上昇したとのことです。その上昇ぶりは混合薬の一つ一つのみを与えた場合よりも大きな差が認められています。 また、他の幾つかの混合物との比較対象実験をしてみたところ、PrimeCを与えられた運動神経のサバイバル率はダントツして上昇しています。(下記グラフ参照)

和訳: iPS細胞比較実験

Prime Cは、シプロフロキサシン(抗生物質)、セレコキシブ(抗炎症剤)よりも優れた結果を出し、健康対象群と同じサバイバル率に達した。

また前臨床試験で、ゼブララフィッシュのモデルを用いた場合にもPrime Cは従来の薬剤に比べて極めて秀でた結果を出しています。その内容は運動能力の改善、運動ニューロンの形態の回復、神経筋接合部構造の回復、ミクログリア細胞の回復とあります。

和訳:従来のALS 既存薬など対象比較薬剤と比べて、Prime Cを与えられた細胞は最高の生存率。
68人を対象として18ヶ月間に渡って行われたフェーズ2bトライアルの結果は、36%の機能改善、43%の生存率向上(注意:以前のレポートによっては33%と58%)とあり、神経障害のバイオマーカーであるニューロフィラメントの数値も大幅に減少との報告がされています。

カナダの医薬品管理局(Health Canada)では、疾患が命に関わるもので効果的な治療法が見出されていない場合、そしてトライアル薬が既存薬に比較して極めて大きな効果を期待できる場合においては特別な早急承認を与えることが以前から知られていますが、そのHealth Canadaがニューロセンス社にPrime Cについての会議をリクエストしてきたとのことです。その会議の結果によっては来年前期にはカナダのALS患者たちはPrime Cにアクセスできる可能性もあるという朗報も今週入ってきました。Prime Cが将来、ALS疾患の第一選択療法となり得る可能性を秘めているという見解もある中、ALS コミュニティーにとっては至って喜ばしいニュースです。

下記の図では、Prime CがALSだけでなく、その他の神経変性疾患を対象としても、ALSの後を追うように進行中であることが示されています。アルツハイマー病やパーキンソン病が掲示されています。 Prime Cについては今後もニュースを追っていくつもりです。

Ichidalabのホームページ:https://ichidalab.usc.edu

https://www.prnewswire.com/il/news-releases/neurosenses-primec-demonstrates-outstanding-effect-on-als-survival-in-innovative-ipsc-model-301946965.html

https://clinicaltrials.gov/study/NCT05357950

ニューロセンス社のホームページのPrimeCの説明文です。和訳:ニューロセンス社の新薬PrimeCは、運動ニューロンの変性と炎症を緩和することで、ALSの進行を抑制することを目的とした併用療法である。この疾患修飾薬は、マイクロRNA合成の調節、神経炎症の軽減、鉄蓄積の調節など、複数のALS経路を標的とするように設計されている。PrimeCは、米国食品医薬品局(FDA)よりオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に指定されている。

https://alsnewstoday.com/news/neurosense-finalizing-protocol-phase-3-als-trial-primec

https://alsnewstoday.com/news/health-canada-considering-early-approval-primec-als

レポーター: 伸子シュルー  Nobuko Schlough (米国)

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