ALS専門情報 ニュース

トフェルセンの欧州での状況について

米バイオジェン社はQALSODY(TM)(トフェルセン)について、FDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)から、ALS治療薬として迅速承認(注1)をうけたことを報告しました(詳細はALS専門情報、2023.12.11)。トフェルセンの承認に関して、EMA(European Medicines Agency、欧州医薬品庁)に動きがありましたので、レポートします。

はじめに、2023.12.11付けALS専門情報を概略します。トフェルセンはALS患者さんの特定の遺伝子変異を標的にしたALS治療薬として世界で初めて開発されたもので、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ)と言われる遺伝子の変異をもつ成人ALS患者さん(SOD1-ALS)の治療薬と位置付けられます。米国FDAは治験フェーズⅢ試験(VALOR試験)の結果から、その効果を期待できるとして、トフェルセンの迅速承認を行いました。VALOR試験では、機能的評価ではプラセボ群との有意差は得られなかったものの、運動ニューロンの損傷を示す、血中ニューロフィラメント濃度に有意差が得られた(トフェルセン投与群:55%減少、プラセボ群:12%増加)ことによるものです。迅速承認では今後の試験により臨床的なベネフィットを確認するという前提条件がつけられました。それを受けて現在、臨床的なベネフィットを確認するためのフェーズⅢ国際共同治験(ATLAS試験)が行われており、日本を含む14か国が参加、2027年には試験終了の予定としています。

バイオジェンジャパンは、ホームぺージ、2024.2.27付けニュースにて、「バイオジェンのQALSODYTM(トフェルセン)、希少な遺伝子型のALSに対する初の治療薬として、CHMPが肯定的見解を採択」とした情報をリリースしています。これによると、EMAの医薬品委員会(CHMP: Committee for Medicinal Products for Human Use)は、トフェルセンについて特例的な状況下での販売承認を推奨する肯定的見解を採択したことを発表しました。欧州委員会(EC)により承認されれば、トフェルセンは欧州連合(EU)にて初めて承認されることになります。特例的な状況下での販売承認は、ベネフィット/リスク評価は肯定的と判断されながら、疾患の希少性により通常の使用状況では包括的データを取得することが困難な場合に推奨されるものです。トフェルセンに対するCHMPの推奨は今後ECで欧州連合における販売承認が検討され、2024年第2四半期に決定が下される見込みと報告しています。

CHMPが、上記判断をした科学的根拠は、VALOR試験の結果によるもので、本試験において、血漿ニューロフィラメントの60%の減少が認められ、ALS機能評価スケール改訂版で評価された身体能力はプラセボ群と比較して改善の傾向が認められるとしています。ベルギーのルーバン大学病院、神経学教授および神経筋リファレンスセンター長のフィリップ・ヴァン・ダーム博士の「トフェルセンの承認を支持するCHMPの推奨は欧州ALSに関わるコミュニティにとって新たな希望です。これはALSコミュニティ全体にとって大きなマイルストーンであり、私たちは初めて軸索損傷と神経変性のマーカーである、ニューロフィラメントの持続的減少を導く治療薬を手にしたのです。・・(以下略)」とのコメントも掲載されています。

注1       迅速承認(Accelerated Approval)とは、重篤な疾患に対し、医療上のニーズが高い医薬品をいち早く患者さんにとどけるために、1992よりFDAが開始したプログラム。臨床上の有用性を示すデータそのもの(エンドポイント)ではないが、臨床上の有用性が予測できるようなマーカーや画像データ等のデータ(サロゲート(代替)エンドポイント)に基づいて、医薬品を評価、承認する。承認後の試験で臨床上の有用性を確認することを前提とし、そのデータが確認されれば、本来の承認が得られる(FDA Accelerated Approval Program, 11/27/2023)。

2024年4月1日 報告者 橋口裕二

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