イギリスでは医療や社会福祉サービスがNHS (National Health Service)という国民保健サービスが公的資金によって運用されています。端的に言いますと、英国国民や私のような日本人(外国人)でも納税者であれば無料で医療サービスを受けることができます(消費税は20%、所得税や住民税もなかなかに高額です)。誰でも平等に治療を受けられるようにというコンセプトから1948年から始まった制度ですが(イギリス国家予算の約25%がNHSに投じられている)、色々と課題が生じていることも日々ニュースで伝えられています(一例では皮膚科の専門医に受診するまでに2年待ちなど、、)。
トフェルセンはイギリスではまだNHSでの正式な使用許可がまだ出ていません。
しかし、確実に効果が期待される場合は正式な使用許可(=NHSによる支払い)が出るまでの間、Early Access Program(EAP)という政府のスキームの元で無償にて利用することが可能です。2022年以降、SOD1遺伝子保持者のALS患者さん約30名が利用し明らかな改善が見られたにも関わらず、約20名の患者さんがトフェルセンの使用を断られているとのことです。
理由としては、患者さんのいる地域に、月1回の骨髄注射(トフェルセン投与)を行える環境がNHSに無い、とのことです(NHSは財政難なので、体制を整えるお金が無い、という状況もあるのではと予想されますが、、)。
トフェルセンの使用を断られた患者さんの中にはフランスに移住して治療を受け、明確な改善がみられている患者さんもいるそうです。
しかし、隣国に容易に移住し治療を受ける、というのも皆が簡単にできるものではありません。
そこで、MND(Motor Neuron Disease Association)というチャリティ団体が主体となり政府に対してNHSでの利用承認を早急に行うように21,859人のサインとともに請願を行い、新薬の承認のプロセスに関わるNICE(National Institute for Health and Care Excellence)という治療対費用効果を判断する機関にも働きかけ承認のプロセスを早めるように嘆願したとのことです。
NHSのシステムと費用対効果を見たときに、希少疾患における明らかな希望に対する承認の遅延による影響はどれほどのものかと考えさせられます。
ALSの患者さんの中でも2%ほどの、SOD1遺伝子保有の患者さんのみにしか効かない薬ではありますが、トフェルセン利用患者さんの多くに明らかな改善(一昨年の冬にはクリスマスカードがかけなかったのに昨年は書くことができた。庭に杖無しで歩いて出ることができた。等)がみられるとのこと、イギリス中の全ての適応する患者さんがこの薬を英国中のどこでも確実に使える状況になることを願ってやみません。
2025年7月22日
Tokiko Kawashima from London, UK
Tofersen in the UK: our Prescribe Life campaign | MND Association
NICE approval: The anxious wait for life-changing drug decisions – BBC News
‘Time is running out’ for patients denied life-changing drug on NHS | UK | News | Express.co.uk
NHS Accelerated Access Collaborative » Early Access to Medicines Scheme