本年2024年、日本では約9年ぶりにALSの新薬が登場しました。9月24日にロゼバラミン®筋注用25mgがALS用剤として日本で承認され、11月20日に販売が開始されました。スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子変異を有するALS患者さんの治療薬トフェルセンについては、本年5月に承認申請されましたが、本年12月2日厚生労働省の専門家部会は、製造販売を認めることを了承しました。今後、厚生労働省が正式に承認する見通しです。との報道がありました(注1)。今回は、ALSの承認済薬剤と開発中の主な薬剤について、アップデートしてみました。その中で、FUS変異によるALS治療薬「ウレフネルセン」について、ニュースがありましたので、こちらについても報告します。
1.本邦におけるALS治療薬の状況(承認済薬剤と開発中の主な薬剤)2024年12月24日現在
① リルテック錠 承認済(1999.3月販売開始) 錠剤/内服 サノフィ
グルタミン酸遊離阻害、興奮性アミノ 酸受容体との非競合的な阻害、電位依存性Na+ チャネルの阻害等の作用を有しており、これらが単独あるいは複合して神経細胞保護作用を発現する。
② ●ラジカット注30mg 承認済(2015.6月販売開始)注射液/点滴静注 田辺三菱製薬
フリーラジカルを消去し、神経細胞の酸化的傷害を抑制することで病勢進展の抑制を示す。
●ジカット点滴静注バッグ30mg 承認済(2015.6月販売開始)注射液/点滴静注
●ラジカット内用懸濁液2.1% 承認済(2023.4月販売開始)懸濁液/内服
③ ロゼバラミン®筋注用25㎎ 承認済(2024.11月販売開始)注射剤/筋肉内注射 エーザイ
ALSに対する作用機序の詳細は解明されていないが、
・有効成分メコバラミン(活性型ビタミンB12)は、神経変性に関わると考えられているホモシステインからメチオニンを合成する酵素の補酵素として働く。これにより、ホモシステインによる神経変性を抑制すると考えられる。
・メチオニンはアデノシンと反応し、S-アデノシルメチオニン(SAM)が生成、SAMはタンパク質のダメージの修復時にメチル基の供与体として働く。メコバラミンは、 SAMを介して神経変性を修復すると考えられる。
④ トフェルセン 正式承認待ち 注射剤/髄腔内投与 バイオジェン SOD-1変異をもつ、成人ALS患者の治療薬。核酸医薬。
⑤ ウレフネルセン 日本を含むグローバル治験第Ⅲ相実施中 注射剤/髄腔内投与 大塚製薬/アイオニス FUS変異をもつ、ALS患者の治療薬。核酸医薬。
⑥ ロピニロール 治験第Ⅲ相準備中。2020年代後半の実現を目指す 錠剤/内服 アルフレッサファーマ/ケイファーマ パーキンソン病治療薬として承認済の薬剤(販売名レキップ®CRなど)。iPS技術により、ALS治療薬の可能性が見出された。ALS効果のメカニズム研究が数報報告されている。
⑦ボスチニブ 治験第Ⅱ相終了 錠剤/内服 京都大学 慢性骨髄性白血病治療薬として承認済の薬剤(販売名ボシュリフ®錠)。iPS技術により、ALS治療薬としての可能性が見出された。
米国の状況と比較してみると、
・①、②、④は米国では承認・販売済。①については、経口フィルム製剤が米国では販売されています(注2)。
・③は、治験報告から、現在は日本のみの販売と考えられます。海外展開に関する状況は確認できていません。
・⑥および⑦は、治験は日本のみと考えられます。⑥については、海外ではカナダや欧州、インドなどで用途特許を登録済みで、米国と中国では特許審査中です。現在は国内外のパートナー候補数社とディスカッションを進めており、近いうちに契約まで持ち込みたいと考えています。との報告があります(注3)。⑦については、海外展開に関する状況は確認できていません。
⑤の状況については、2.にて報告します。
2.FUS変異によるALS治療薬「ウレフネルセン」について
本年2024年11月22日付け、大塚製薬ニュースリリースにて、ウレフネルセンの全世界を対象としたライセンス契約締結について、報告されています。https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2024/20241122_1.html
本剤は、米国カリフォルニア州に本社を持つアイオニス社( https://www.ionispharma.com)が創製したもので、大塚製薬が全世界を対象とした独占的製造販売権をアイオニス社から取得するライセンス契約を締結、これにより、全世界における製造および販売は大塚製薬が独占的に実施する。としています。
本剤について、FUSは日本では2番目に多いALSの原因遺伝子として知られています(欧米では3~4番目)。FUSの遺伝子変異によって引き起こされる「FUS-ALS」は、一般的なALSと異なり、発症年齢が40歳前後と若い方に多く、病状の進行が非常に早いことが特徴です。本剤は、アイオニス社が創製したアンチセンスオリゴヌクレオチドという核酸医薬です。遺伝子変異により毒性を持った異常なFUSタンパク質が神経に蓄積することで神経変性が生じる「FUS-ALS」に対して、12週間ごとに脊髄注射することで異常なFUSタンパク質の生成を阻害します。現在、日本を含む各国においてアイオニス社がグローバルフェーズ3試験を実施中で、開発に成功すれば、本剤は「FUS-ALS」における世界で初めての治療薬になる可能性があります。と報告されています。
日本でも治験が開始されており、東邦大学より、「FUS変異による筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治験開始について」がニュースリリースされています(プレスリリース 発行No.1368 令和6年5月29日、https://www.toho-u.ac.jp/press/2024_index/20240529-1368.html)。これによると、東邦大学医療センター大森病院 脳神経内科(診療部長:狩野 修)は、2024年6月より、FUS変異によるALS患者さんに対する核酸医薬の治験(FUSION試験 第1−3相)を実施します。今回の治験対象は12歳以上で、遺伝子検査でFUS変異を有しており、肺活量が50%以上であるALS患者さんです。登録期間は2025年3月までとなります。と報告されています。
治験の詳細はjRCT 臨床研究等・治験計画情報を参照下さい。: https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031240101
「筋萎縮性側索硬化症(ALS)に 対する遺伝子治療」日内会誌 111:1527~1531,2022
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/8/111_1527/_pdf
によれば、本邦におけるALS患者の約10%は家族歴を有し、そのうち30%がSOD1 遺伝子の突然変異、FUS(Fused in sarcoma)の突然変異は2番目に多い10%と報告されています。また、10代という若年発症型ALSにおいてはFUS突然変異が最大の原因である。特にFUS突然変異の中でP525L変異は若年発症のみならず急速進行の経過をたどり、発症後1年前後で呼吸不全に至るという、深刻な変異である。と報告されています。
注1 NHK News Web「厚労省 ALS新薬 製造販売を了承 国内初の治療薬となる見通し」
2024年12月3日 5時09分 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241203/k10014656431000.html
日本経済新聞「ALS治療薬の承認了承 特定の遺伝子変異が対象」2024年12月3日 9:01 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA030SC0T01C24A2000000/ 等
注2 田辺三菱製薬 ニュースリリースALS治療薬のラインナップを強化 リルゾール経口フィルム製剤「エクサヴァン」を米国で発売 2021年7月1日
https://www.mt-pharma.co.jp/news/2021/MTPC210701.html
注3 AnswersNews 連載・コラム iPS細胞で見出したALS治療薬、2020年代後半に実用化―ケイファーマ・福島弘明社長 2024/09/25
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/28760
2024年12月24日 橋口 裕二