ALS専門情報

既存薬の転用でALS治療へ

既存薬転用のことを、欧米では「Repurposed Drug  (既存薬の使用目的の追加)」と呼んでいます。つまり既存する薬の適応範囲を広げて使うことです。既に存在している薬なので治験プロセスを一気に早めてくれます。効果力の高い治療薬の到来を待っている難病患者さんの手元に、有効な薬をいち早く届けられるということで、iPS技術を駆使した既存薬候補探しは大いに活用されています。現在期待されている既存薬転用のニュースをいくつか共有したいと思います。

2021年10月に、ALS患者さん由来のiPS細胞から作製した運動神経細胞(病態再現している細胞)を駆使し、候補薬を見つけ出した京都大学が、白血病治療薬の既存薬『ボスチニブ』(商品名ボシュリフ)が、A L S患者約半数もの進行を抑制したという研究発表を世界初で出し、A L Sコミュニティを大いに勇気づけました。2022年4月からはその第2相治験が京都大、徳島大、他で開始され進められています。

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/221026-100000.html

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220415-130000.html

また、パーキンソン病治療に使われる「ブロモクリプチン」という薬が細胞内のNAIPというタンパク質(運動神経を保護するタンパク質)の発現を高めALSの進行を抑制するということが、2018年に東邦大学と北里大学により英国科学誌Scientific Reportsにて公開されています。

http://www.qlifepro.com/news/20180118/naip-becomes-a-biomarker-of-als.html

慶応義塾大学は2016年にiPS細胞を用いてパーキンソン病の薬であるロピニロール塩酸塩がALSの病態に有効であることを見出しており、2021年には医師主導治験(第1相、第2相)を行い、ALS患者においてもその安全性と有効性が確認されました。既存薬以上のALS進行抑制効果をもたらしうる薬と発表されました。1年の試験期間に、病気の進行を約7か月遅らせる可能性が示されたとのことです。ロピニロールー塩酸塩はALS治療薬として世界で初めてiPS創薬で見出された薬とのことです。ケイファーマ社とアルフレッサ ファーマ社は、ロピニロール塩酸塩の日本国内開発権・製造販売権許諾契約を2023年3月に締結しています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000101219.html

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2021/5/20/28-80089/

英国エジンバラ大とオックスフォード大は、運動神経のエネルギー生産にターゲットを絞ったアプローチで2022年に研究発表をしています。 A L Sの初期の段階では運動神経のエネルギー生産量が減少していくことが知られています。脳卒中とパーキンソン病の治療でエネルギーを増加させるP G K1という酵素にヒントをもらい、その酵素に目を向け、既存薬のT E R A Z O S I N (テラゾシン)という前立腺肥大や高血圧用の薬を候補にして試してみたところ、実験用ゼブラ魚や、ネズミ、そしてALS患者由来の幹細胞モデルで効果があることが判明しました。 テラゾシンは血管にある交感神経のα(アルファ)受容体を遮断して血管を広げて血圧を落とします。またテラゾシンはP G K1酵素を活性化し、エネルギー生産を増やします。エネルギー生産が増えると運動神経の死を防ぐことができ、ALS進行を抑制できます。実現可能性テスト後、本格的な臨床トライアルに入っていくとのことです。  

https://www.ed.ac.uk/news/2022/mnd-terazosin

https://medicalxpress.com/news/2022-08-repurposed-drug-patients-motor-neuron.html

Report by Nobuko Schlough

関連記事