ALS専門情報 ニュース

ALSなど希少疾患の薬事プロセスの改善が討議されています。

厚生労働省にて、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」が、2023年7月~2024年3月で、9回開催され(注1)、2024年4月に報告書がまとめられました。 本検討会は、規制当局、医薬品業界、医師、薬剤師等の有識者を招き、医薬品の供給不安、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスなどの問題について、主に薬事制度上の課題の面から、具体的な対応策が検討されています。この中で、「検証的試験等における日本人データの必要性の整理」及び「迅速な承認制度のあり方」についても検討されています。専門家の会議議事録などの資料からの情報ですので難解ですが、このような議論の結果から治療薬がみなさんの手に届く流れの下流を理解していただけると思います。

検証的試験(およびそれに先立つ探索的試験(検証的臨床試験、探索的臨床試験と表記される場合もあり))とは、以下のように説明されています。

・探索的試験とは、少数の患者に医薬品を投与・使用し、医薬品の有効性、安全性を検討し、用法・用量等を設定するための試験。

・検証的試験とは、多数の患者に医薬品を投与・使用し、設定した用法・用量等での医薬品の有効性・安全性を検証する試験。

*一般的には、探索的試験は治験第Ⅱ相試験、検証的試験は治験第Ⅲ相試験とされています(注2)。

また、「迅速な承認制度のあり方」では日本の条件付き承認制度について、協議されています。この制度は、米国の迅速承認制度、欧州の特例的な状況下での販売承認制度と同様に、医療上の必要性の高い希少・重篤な疾患に対する医薬品については、検証的試験の結果を待たず、探索的な試験結果に基づいて薬事承認を行うとの目的により、2017年厚労省通知にて運用開始、2020年に法制化されたものです。本HPでも報告しました、新しいALS治療薬、米バイオジェン社のトフェルセンは、米国、欧州では、上記制度にて、承認を受けています。

今回は、「検証的試験等における日本人データの必要性」について、レポートします。

本レポートは下記の「本検討会の報告書」をメインに、資料、議事録からの情報を追加し、作成しております。詳細は各アドレスを参照ください。

本検討会の報告書(p17、5.~):https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001248959.pdf

第6回資料1:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_128701_00006.html

第6回議事録:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37281.html

第8回資料2:https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001206148.pdf

第8回議事録:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38256.html

1. 検証的試験等における日本人データの必要性について

新薬の開発はグローバル化が進み、国際共同治験の実施により世界同時開発することが主流となっている。また、日本が国際共同治験に参加できなかった場合には、日本人での有効性・安全性を確認するために、国内での臨床試験を実施した上で承認申請されることが通常である。一方、例えば、患者数の極めて少ない、いわゆる超希少疾患においては、国際共同試験や国内試験において組み入れられる日本人の症例数が極めて少なく、国際共同治験や海外試験との一貫性・類似性を評価するには情報量が乏しい場合もある。これまでは、日本人のデータが集団としての評価が難しい程度に少なくても、個々の被験者の詳細な医学的情報をみて日本人に外国人のデータを当てはめることができるか精査してきた。

これに対し、製薬業界から、「適切にデザインされた海外臨床試験の結果や類薬の情報を含めた既存の知見、モデリング&シミュレーション等に基づき日本人での用法・用量並びに有効性・安全 性が説明可能な場合、改めて日本人での少数例の試験を行わずに、海外で実施された臨床試験等で臨床データパッケージを構成できると考える。」との提案がなされた。これは、少数例の日本人の試験では、安全性や有効性を評価することは難しく、また推定精度も低いことから、外国の臨床試験成績と比較して明確な結論を導くことは困難である。 臨床試験の準備にかかる労力・コストは、ごく小規模な試験であっても大規模な試験と大きな相違はない。等を背景とした考えからである。

 検討会の結論は、「我が国での医薬品の承認審査においては、日本が参加した国際共同治験又は国内試験の結果に基づいて、日本の医療環境下の日本人での有効性及び安全性を評価することが基本であるとする考え方に変更はない。 また、国際共同治験については、日本人の組み入れ例数が極めて少数であっても、 臨床的観点も踏まえた総合的かつ多角的評価により、全体集団の成績とのある程度の比較検討は可能であり、また、医療現場への情報提供等の観点からも、日本が参加する意義はあると考えられる。少数例の国内試験についても同様に一定程度の意義はあると考えられる。」というもので、参加者からは、以下のような意見が出ている。

⚫小児癌などの超希少疾患であっても全て日本人治験を行う必要がないとは思わない。これから行われる国際共同治験であれば参加すべき。

⚫医療現場としては、日本人症例は必要という感覚。超希少疾患で、海外で検証的試験が実施済みであれば、日本人の治験がなくとも仕方ない感覚はあるが、治験の空洞化という意味での心配もある。

⚫ 少数例であっても国際共同治験に参加した経験を通じて、医療機関での経験・ノウハウの蓄積に繋がった。日本人のデータがあることで医療現場・患者の安心感に繋がる。基本的には必要なものであるという考え方は維持すべき。

⚫これまでは日本人のデータを求めてきたが、多くの医薬品部会上程品(新薬として承認審査の対象となったもの)の場合、外国人と同様の傾向である印象。

⚫ これまでは日本人のデータを求めてきたが、既に海外で臨床試験が行われ、ラグになってしまっている医薬品について は、さらに国内治験を行うことでラグが長期化してしまうことを避けるため、国内データは承認と並行して収集してもいいのではないか。

⚫専門医のみが使用するような医薬品と、クリニックで幅広く使われる医薬品では、考え方を分ける必要がある。

 ⚫ 比較的ゆっくり状態を保てる疾患と、急激に状態が悪くなる疾患では取扱いが異なるでは。

一方で、海外で臨床開発が先行している医薬品については、日本で新たに治験を実施することにより、さらに日本人患者の医薬品へのアクセスに時間を要する場合がある。また、追加で日本人試験が求められることにより、日本での開発を断念しているケースもあることから、日本人患者における臨床試験成績がなくとも薬事承認を行うことが適切であると考えられる場合が整理され、下記要件が示されている。

次の①~③のいずれにも該当する場合が考えられる。ただし、必ずしもこれらに限られるものではない。

①  海外で既に主たる評価の対象となる臨床試験が完了している

・中間解析において主たる評価が可能な場合は、当該中間解析が完了している場合を含む。

・ただし、海外で臨床試験ではなく症例報告等に基づいて既に承認されている医薬品の場合は、海外で臨床試験が完了している必要はない。

②  極めて患者数が少ないなどにより、日本の承認申請までに国内で追加の臨床試験を実施することが困難

・臨床試験の実施の困難性は、必ずしも患者数のみによって判断されるものではなく、疾患等に基づいて総合的に判断するべきものである。

・致死的な疾患や、急速かつ不可逆的な進行性の疾患などでは、追加の臨床試験を実施することにより承認までに時間を要する場合の患者の不利益が大きいことから、必ずしも患者数によらず国内での臨床試験の実施が困難と判断される場合がある。

③   得られている有効性・安全性に係る情報等から、総合的に、日本人におけるベネフィットがリスクを上回ると見込まれること

  承認申請と並行して治験(拡大治験を含む)を開始するなど、日本人患者の投与実績に関する情報を可能な限り収集し、審査において確認するとともに、医療現場へ情報提供することが重要である。医薬品の構造、特性、類薬の状況等から、日本人における民族差があることが具体的に示唆され、安全性や用量の適切性について追加の情報が必要と判断される場合には、日本人における臨床試験が必要と判断される場合があることが付記されている。 次回は、「迅速な承認制度のあり方」について、レポートします。

 注1      創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_128701_00006.html

注2  『第III相試験』(検証的試験)、多数の患者さんについて、第Ⅱ相試験(探索的試験)の結果から得られた「くすりの候補」の有効性、安全性、使い方を最終的に確認します。確認の方法は、現在使われている標準的なくすりがある場合にはそれとの比較、標準的なくすりがないときにはプラセボとの比較が中心になります。これとは別に、長期間使用したときの安全性や安全性がどうかを調べることもあります。               製薬協、治験の3つのステップ。https://www.jpma.or.jp/about_medicine/shinyaku/tiken/base/chiken/02.html

2024年7月21日 報告者 橋口 裕二@P-ALS

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