ALL ALS PREVENT STUDYが米国で始まりました。全体の参加者は1000名を突破しています。
ALS世界ニュース「[ 欧米国際研究 ] 新しい血液検査によるALS確定診断の可能性について。」2025.10.19にて、ALSを発症する10年前という早期段階で、極めて高い精度で検出できる血中の特異的なタンパク質群が特定され、ALSの進行は、10年という長いスパンで始まっているとする見解が報告されています。現在、米国では、未発症のALS遺伝子リスク保有者の方から、様々なデータを収集、ALS発症前にどのような変化が起きているかを解析し、病態進行の抑制、さらには発症の抑制につなげようとする、大規模な臨床研究「PREVENT ALL ALS STUDY」が行われています。今回は、米国と日本の未発症期のALSに関する研究について、レポートします。
1. 未発症のALS遺伝子リスク保有者の方を対象とした臨床研究
(1)ALS遺伝子リスク保有者に関する縦断的研究(PREVENT ALL ALS – Longitudinal Biomarker Study for Participants Who Are Genetically at Risk for Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS))
・本研究はALL ALS臨床研究コンソーシアムによる取り組みの一つです。本コンソーシアムは、米国国立衛生研究所/国立神経疾患・脳卒中研究所(NIH/NINDS)から資金提供を受け2023年に設立、Barrow神経学研究所およびマサチューセッツ総合病院にある2つの臨床コーディネートセンター(CCC)によって運営され、現在全米36か所の施設が参加しています。
・そのミッションは、ALSの大規模なデータベースを構築すること。具体的には全米から、あらゆる段階(未発症のリスク保因者~末期段階)のALSの方にボランティアとして参加いただき、参加者の臨床情報、血液・脳脊髄液などのサンプル、患者作成のアウトカム報告(日常動作や痛みの有無などの報告)などを経時的に収集し、データベース化する。将来の研究のためにデータを提供し、臨床研究のインフラを構築していく。ALS進行過程を理解し、治療のターゲットを特定し、ALSの診断と発症抑制のための戦略を改善していく。などとなっています。
・2024年に参加者の募集が始まり、2026年1月にALL ALS臨床研究コンソーシアムに1000人目が登録されたことを報告しています。ALL ALS Consortium enrolls 1,000th participant
詳しくは、About ALL ALSを参照ください。
・研究の中の一つが、ALL ALS PREVENT STUDYです。本研究は、遺伝的にALSのリスクがある無症状の参加者(家族性ALS患者の血縁者など)を対象に、データ収集を行うものです。その意義について、ALSの自然経過に関する研究において、無症状のALS遺伝子保因者における初期の変化の解明は、最優先課題である。この取り組みにより、神経の損傷を修復し、ALSの進行を食い止め、さらには発症予防を実現するための、優れた医薬品開発につながる知見が得られることが期待される。としています。
・参加者は最長3年にわたり追跡調査を受け、その間、年1回の来院・面談を計4回、4ヶ月に1回のオンライン訪問計6回が行われます。この中には、参加者の病歴、医師による評価の記録、4か月に1回の採血が含まれます。また、参加者が直接記入するアウトカムの記録および発話の記録を4か月に1度行います。さらに、任意で脳脊髄液(CSF)の提供を行うことができます。
・得られたデータは電子的に保存、採取された血液、脳脊髄液は生体バンクに保管され、いずれも研究者の要求に応じ提供されます。
②無症状期の家族性ALSに関する臨床研究(The Pre-symptomatic Familial Amyotrophic Lateral Sclerosis (Pre-fALS) Study (Pre-fALS)
本研究は、マイアミ大学にて2006年に開始され、現在も継続中の研究です。遺伝的にALS
を発症する可能性をもつ人の、ALS無症状期、発症および進行過程を研究し、ALS発症リスクを高める遺伝的要因、環境的要因について研究することを目的としています。ALSに関連する既知の遺伝子変異が特定されている家族性ALSの家系から、ALSを発症していない(健康な)被験者を対象とし、現在も被験者の募集が行われています。
③日本におけるALS発症前研究
日本では、厚労省の科学研究費にて、ALSの発症前診断と予防法開発を可能にする無症候性最初期病態の解明研究が2025年4月に関西医科大学により開始されています。試験概要は以下のように説明されています。ALSは発症後の病勢が比較的急速に進行する。そのため、無症候性段階でのスクリーニング、早期診断、発症予防が本疾患の克服に向けた有力な戦略となりうる。本研究では、我々が構築したALS病態モデルの運動神経において、神経変性の引き金を引く最も初期の表現型(最初期表現型、*表現型:遺伝子と環境の相互作用により現れる特徴や変化)を同定し、その発現機構を解明し、さらに、最初期表現型を抑制することによって神経変性を抑止できることを実証する。本研究は無症候性ALS患者のスクリーニングマーカーを提示し、予防的介入と効果的な変性阻止のための創薬標的を明らかにする。
本研究に先立ち、2022~2025年に同大学にて、「患者iPS細胞を用いたオプティニューリン変異による神経変性機構の解明」が行われています。ALSの原因遺伝子のひとつであり、また前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病、パーキンソン病など多くの神経変性疾患の発症機構にも関与すると想定されているオプティニューリン(OPTN)変異型ALS患者2名から樹立されたiPS細胞から脊髄運動神経を分化誘導し、最も早く発現する表現型を同定し、それに付随する新規表現型も同定した(既報の研究を解析したところ、ALS病態の異常は一斉におこるのではなく、発現に時間的順序があることが分かってきている)。また、これらの異常に伴い、患者iPS細胞株では脊髄運動神経の樹状突起が縮退することを見出した。最初期表現型の発現メカニズムについても解析し、表現型発現を説明しうる細胞内過程の異常を見出した。ことが報告されています。
2.トフェルセン発症前のSOD-1ALSの方を対象とした、発症抑制試験(ATLAS試験)
・ATLAS試験は、SOD1変異を有するALS臨床症状発症前の成人を対象としたトフェルセン(BIIB067)の無作為プラセボ第III相試験です。主目的は、「SOD1変異を有し、ニューロフィラメントの濃度上昇が認められる発症前の成人を対象にBIIB067の有効性を評価する。」となっています。
・現在、トフェルセン(クアルソディ)は発症後のSOD-1ALS患者の機能障害の進行抑制を目的として使用されています。ATLAS試験は発症前のSOD-1ALSの方にトフェルセンを投与し、その発症抑制効果の検証を目的とした試験となっています。
・現在日本を含むグローバル試験として32施設で行われており、日本では2施設が参加しています。
日本での試験について:SOD1変異を有するALSの臨床症状発症前の成人を対象とした自然経過観察期間及び非盲検継続投与期間を含むBIIB067の無作為化プラセボ対照第III相試験
2026年7月16日 報告者 橋口 裕二@P-ALS
「ゆめばす」だれもが行きたい場所に行ける社会の実現