国際的な研究チームが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症する10年前という早期段階で極めて高い精度で検出できる血中の特異的なタンパク質群を特定しました。
この新しい研究結果は、ALSの診断検査として切望されていた技術の基盤を築くものになりそうです(2025年時点では、ALSを特定する診断技術はまだ存在せず、患者さん自身の症状の経過観察及び、対象検査を行い予想されうる疾患を消去法で診断。およそ1年ほどの時間がALSの診断にかかることが多い。)。
研究チームは、600人以上の参加者から採取した血液サンプルを用い、神経系および骨格筋関連の約3,000種類のタンパク質を測定する高度なプラットフォームを利用しました。そこに機械学習を組み合わせ、ALSを予測する「タンパク質シグネチャー(特徴的パターン)」を抽出しました。
最終的に導き出されたタンパク質モデルは、ALS患者と健康な人、または他の神経疾患患者を98%以上の精度で識別できることが分かったとのことです。
共同研究者の**アレクサンダー・パンテリヤット博士(ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経学准教授、同大学非典型パーキンソン症センター所長)**は次のように述べています。
「トンネルの先に光が見え始めました。その光とは、ALSを診断するための血液検査の可能性です。
早期にALSを検出できる検査があれば、人々を経過観察研究に登録することで、疾患の治療やさらには進行を止めるなどの可能性のある薬をALSが重症化する前に処方するなどの機会が得られます。」
この研究では、すでにALSを発症している患者さんたちだけでなく、数年前に血液を提供しており、その後ALSを発症した人々も対象としました。
この「発症前」の参加者の血液サンプルから、研究者たちはこれまで知られていなかったタンパク質の変化を観察しました。
これらの変化は、骨格筋の機能障害、神経シグナルの異常、エネルギー代謝の乱れなど、臨床症状が現れる前の身体内部の変化を示していました。
研究チームは、英国バイオバンクの2万3,000人の大規模コホートを含む複数の独立グループで、この検査の精度を確認しました。
この中には、ALS発症の10〜15年前に採取された110人の血液サンプルが含まれており、これらでも研究で特定されたタンパク質シグネチャーの変化が見られたとのことです。
この発見は、ALSの生物学的マーカーが臨床症状の最大10年前から検出可能であることを示唆しています。
パンテリヤット博士:
「私たちはこれまで、ALSは症状が出る12〜18か月前に発症する急速な病気だと考えてきました。
しかし今回の結果を見ると、患者が医師の診察室を訪れるずっと前、10年ほど前から病気の進行が始まっていることが分かります。」
すべての検証グループにおいて、このモデルはパーキンソン病やニューロパチーなど他の神経疾患による誤検出(偽陽性)を最小限に抑えながら、ALSを高精度で検出しました。
さらに、このタンパク質変化は遺伝的要因によるものではないことも確認され、家族歴のない患者にも広く応用できる可能性が示されました。
パンテリヤット博士:
「ALSと他の疾患を明確に区別できることは、患者や家族にとって診断の正確性、予後の理解、そして適切な臨床試験への参加資格の面で極めて重要です。」と述べています。
現在、このタンパク質シグネチャーがALSの進行モニタリング、治療効果の評価、さらには他の神経変性疾患の診断支援にどのように活用できるかを調べる追加研究が進行中です。
また、研究チームはALSバイオマーカー開発のさらなる進展を促すため、データを公開しているとのことです。
日本では約1万人強のALS患者さんがおり、毎年1000~2000人の患者さんが新たな診断を受けているとのこと。早期の確定診断の開発、治療法の確立、患者さんご本人のみならず傍で支えるご家族や周りの方への支援の充実、等々、まだまだ沢山の課題があるかとは思われますが、早期診断、早期治療につながる一歩となりますよう、注目していきたいと思います。
2025年10月14日
Tokiko Kawashima @P-ALS from London, UK
New blood test for ALS detects early signs years before symptoms appear
Protein-based blood test detects early signs of ALS | National Institutes of Health (NIH)
New Blood Test for ALS Detects Early Signs Years Before Symptoms Appear | Johns Hopkins Medicine