ー 第三相治験成功の発表
Pharmaceutical Technologyオンライン誌(米国)に、8月14日付でABサイエンス社(本社フランス パリ)の既存薬マシチニブについて発表がなされました。マシチニブ薬は、ボスチニブ薬(慢性骨髄性白血病の治療薬)同様、チロシンキナーゼという酵素の阻害剤です。チロシンキナーゼは細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要な役割を担う酵素で、チロシンキナーゼが過剰に活性化すると細胞が異常に増殖しがんなどの疾病の原因となります。ヨーロッパでは動物用(特に犬用)の肥満脂肪腫瘍治療薬として2009年から使われています。
治験ではこのマシチニブ薬が、中枢神経と末梢神経の保護作用を顕著に発揮しているとし、EMA (欧州医薬品局)とFDA (米国食品医薬品局)の両方からOrphan Drug Designation(希少疾病用医薬品の指定)を受けています。ABサイエンス社のサイトによりますと、マスチニブは選択的な酵素阻害を通して、ALS病因に関与しているいくつかの細胞(マスト細胞やミクログリア細胞)の機能を調節し、神経炎症を軽減し神経を保護するそうです。
下記はABサイエンス社のサイトからで、プラセボと比べALS患者の機能低下の遅延が見られます。
この研究結果はJournal of ALS and FD誌 に掲載され published 、ALSにおけるチロシンキナーゼ阻害剤の第三相治験の初の成功として注目を浴びています。
このマシチニブ薬は1999年から使われているリルゾール(グルタミン酸遊離阻害剤)との併用治療薬として治験が行われました。Pharmaceutical Technologyオンライン誌では、近いうちに人間のALS患者適応への承認が予想されると発表しています。
記事によりますと、現在マシチニブ薬は、数多くの疾患への適応をめざし開発研究されており、それら対象となる疾患の中にはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、全身性肥満細胞症、肥満細胞活性化症候群、転移性膵臓がん、消化管間質腫瘍、アルツハイマー、喘息、原始生卵巣がん、原発性腹膜がん、再発寛解多発性硬化症、抹消性T細胞リンパ腫、成人T細胞リンパ腫白血病(ATLL)、ヒトT細胞リンパ腫ウイルス-1(HTLV -1), 未分化大細胞リンパ腫、皮下脂肪織炎T細胞リンパ腫、形質転換菌状息肉症などが含まれています。またCovid-19 コロナウイルス疾患も対象となって研究開発されているとのことです。
Phase 3 Trial of New Drug To Treat Progressive MS Approved by FDA – Practical Neurology.
2023/8/24 伸子 シュルー