ALS世界ニュース ニュース

[ 米国 ] 期待されるALS治療ー脳と目頭を繋ぐ脳熱トンネルを利用した脳温調節療法  

コネチカット州エール大学とフロリダ州から

脳と目頭(目と鼻の間の薄い皮膚)を繋ぐ、脳熱トンネルを用いて脳温を適切に変化させることにより、HSPという細胞を保護するヒートショック・プロテイン(HSP)を生成させて、ALSやパーキンソン病などの神経変性疾患の治療に役立てようという研究が現在進んでいます。ヒートショック・プロテイン(HSP)とは、熱などのストレスを受けたときに細胞を保護したり、傷ついたタンパク質を修復したり、異常な折りたたみのあるプロテインを除去する働きを持つタンパク質一群のことです。

この脳熱トンネルはエール大学のM・マーク・アブレウ博士(Dr. Abreu)の率いるチームによって2003年に発見されたもので、脳の正確な深部温度(脳温)を体の外から連続的に測定できる特殊な皮膚領域(熱の通り道)で、これまでになかった有用な測定法を可能にしたということで医学界では重要視されています。この場所は脳の温度調節を司る熱貯蔵中心(視床下部など)と直接繋がっており、光エネルギーや熱を効果的に伝えます。 従来、脳の正確な温度を測るには頭蓋骨の内部にセンサーを入れるしかありませんでしたが、この「トンネル」の発見により、皮膚の上から安全かつリアルタイムに脳の温度を正確に計測することが可能になりました。熱中症予防などにも有用であり、医療現場での脳温管理にすでに大いに貢献しています。 

この脳熱トンネル(Brain Thermal Tunnel / BTT)を用いた治療は、脳の視床下部(体温調節中枢)と直接つながる目頭の皮膚表面の領域を利用し、薬剤を使わずに脳の温度を非侵襲的にコントロールする最先端熱刺激療法です。 

アブレウ博士によって設立されたBTT Medical Institute(フロリダ 州マイアミ北郊外) で、脳神経疾患やがんに対する革新的な先進医療として研究開発が進行中です。

治療のメカニズムはどのようになっているのか簡単に説明しますと、従来の方法とは異なり、頭蓋骨を開けたり薬剤を投与したりすることなく、高度にコンピュータ管理されたシステムを使って脳温を精密にコントロールします。 脳温を安全かつ一時的に上昇させ「治療的発熱状態」を作り出します。これにより、脳内で細胞を保護・修復する熱ショックタンパク質(HSP)の産生を劇的に促します。 このHSPの増加により、ALSなどの主な原因とされる「折りたたみの異常なタンパク質」の蓄積(例:ALSのTDP-43など)を、患者が本来もち備えている免疫反応によって安全な除去へと誘導します。

この発熱療法は1927年にノーベル賞を受賞したオーストリアのジュリアス・ワグナー博士の人間の体が本来備えているヒートショック反応の発見に基づいたものです。 1927年のオーストリアでの発見による知見と76年後の米国エール大での2003年の発見の組み合わせによって可能となった最先端の療法です。 そして2006年にアブレウ博士によりBTT社(フロリダ州)が設立されました。

この治療法の大きな利点として挙げられているのは、患者の体に優しい「非侵襲性」のみでなく、「意識下での治療」ということです。 麻酔や鎮静剤を必要とせず、患者は完全に意識がある状態のまま、痛みもなく安全に治療を受けることができます。 またこの治療法は、これまで「進行を遅らせることしかできない」とされてきた多くの難病に対して、細胞やタンパク質の構造的な回復や機能改善の可能性を示していることで医学会では注目されています。 一つのケーススタディーとして去年、ALS患者の完全な回復(リバース)が報告され大きな注目を集めました。その患者の筋電図(EMG)の正常化、呼吸、嚥下、歩行、言語機能のスコアの回復がその報告ペーパー(論文)で列挙されています。

下記にその話題となったペーパーを添付し、ペーパー内にあるグラフィック説明を掲載します。 ALS進行中で歩行困難だった56歳の患者が、治療後にはピックルボールや、ゴルフや水泳をするほどになったという驚くべきリカバリーの報告です。

上記の2025年の論文タイトル名の和訳:   1927年のノーベル賞受賞「発熱療法」をコンピュータ制御の脳誘導技術で再構築し、筋電図の正常化、構造的再構築、および神経筋・分子レベルの機能回復を達成することで確認されたALSの完全な回復:症例報告

論文内に掲載されている患者リカバリーのグラフィック描写:   コンピュータ制御の脳誘導型インテリジェント発熱療法によるALSの完全回復

上記キャプションの和訳:   放射・伝導による熱供給と視床下部を介したフィードバック調節を統合した、コンピュータ制御のインテリジェントな熱供給システムCBIT2の構造的・機能的構成要素の模式図。

(A) BTT放射熱チャンバーのモジュール構造。身体全体にわたる熱分布の精密な制御を可能にする統合セグメントを備えている。 (B) CBIT2チャンバーの正面図および  (C)側面図。熱伝達経路を示しており、下向きの矢印は放射熱の流れを、上向きの矢印(単一の上向き矢印)は伝導熱の流れを表している。  (D) まぶたに装着するBTT熱誘導装置(サーマル・インダクター)を含むBTTセンサー・アセンブリ。  (E) BTTセンサー・アセンブリ、CBIT2チャンバー、およびまぶた装着型BTT熱誘導装置を統合した、FDA承認済みのAbreu-BTT 700システム(Brain Tunnelgenix Technologies Corp、米国フロリダ州アベンチュラ)を使用するBTTコンピュータ制御プラットフォーム。BTT:Brain–Eyelid Thermoregulatory Tunnel(脳・眼瞼体温調節トンネル);CBIT2:Computerized Brain-Guided Intelligent Thermofebrile Therapy(コンピュータ制御・脳誘導型インテリジェント熱発熱療法)

https://www.mdpi.com/2079-9721/13/11/371

   

この治療法が世界中の多くのALS患者たちにリバース回復をもたらすことを願って止みません。  

報告者: Nobuko Schlough (伸子シュルー)  米国在住@P-ALS

関連記事