NIH(アメリカ公衆衛生研究所)の最新の医学・健康研究に関する情報配信: NIH Research Mattersにて、「Short RNAs may prevent neuron death linked to ALS, dementia」2026.June 26(ショートRNAはALSや認知症に関連する神経細胞の死を防ぐ可能性がある)が報告されています。ショートRNA*によるTDP-43の凝集の抑制、解消(逆戻し)の可能性を示唆する報告です。これについてレポートします。
1.Short RNAs may prevent neuron death linked to ALS, dementia、2026.June 26
本配信では、NIHが資金を拠出、Pennsylvania’s Perelman School of Medicineにて行われた研究で、 Science May 7, 2026.に掲載された論文について、紹介しています。
これまでの研究により、あるショートRNAがTDP-43と相互作用し、その凝集を逆転させたり、あるいは抑制することが示されており、これらのRNAはTDP-43の凝集に関連する疾患に対する有望な治療選択肢と考えられています。また、ショートRNAには、神経細胞へ容易に送達できるという利点もあります。本研究では、これらのRNAがどのようにしてTDP-43の凝集を抑制するのかについて研究しています。
研究者らは、Clip34と呼ばれる特定の配列を持つショートRNAが、TDP-43の凝集を抑制できることを発見していましたが、今回の研究では、Clip34がTDP-43の2つのRNA結合部位を安定化させ、その結果、このタンパク質の凝集が起こりにくくなることを突き止めました。
試験管内での実験において、Clip34は正常なTDP-43および複数の変異型TDP-43の凝集を抑制しました。研究者らはClip34を改変し、Clip34で凝集阻止能力が低かった変異型TDP-43についても、凝集を抑制する能力をもつ、ショートRNAをいくつか検討し、「Malat1_start」と呼ぶRNAを選定しました。このRNAは、タンパク質がすでに凝集体を形成した後であっても、TDP-43を正常な形態に戻しました。また、Malat1_startは、研究者らが細胞内で誘導したTDP-43の凝集も抑制しました。重要なポイントとして、Malat1_startはTDP-43の正常な機能を妨げなかったことを確認しています。
Malat1_startとClip34は、ALS患者から培養した運動ニューロンにおいて、TDP-43を正常な位置である核内に戻し、さらに、Malat1_startは、ストレスを受けた運動ニューロンにおける細胞損傷によって損なわれていたTDP-43の機能を回復させました。最後に、運動ニューロンにTDP-43凝集体が生じているマウスにおいて、Malat1_startはTDP-43の凝集を部分的に解消し、TDP-43の機能を回復させ、ニューロンの死を減らしたことが確認されました。
以上の研究結果は、TDP-43の凝集を標的とするショートRNAのさらなる研究継続を支持するものである。今後の研究で有望な結果が得られれば、ショートRNAは、TDP-43に関連する神経疾患の治療に役立つ治療戦略へと発展する可能性がある、と結ばれています。
本報告の元となった、研究論文:Short RNA chaperones promote aggregation-resistant TDP-43 conformers to mitigate neurodegeneration、(ショートRNAシャペロン**はTDP-43の凝集抵抗性を促進し、神経変性疾患を抑制する)Science 7 May 2026.について、日本語の紹介記事があります。5月14日 RNAシャペロンによるALS治療の可能性(5月7日 Science 掲載論文)。
用語解説
*ショート(スモール)RNAとは、ノンコーディング(タンパク質をコードしない)RNAのうち、長さがわずか約20~30塩基の短いRNA分子で、発生、分化、腫瘍進展、神経発生、トランスポゾンのサイレンシング、あるいはウイルス防御といった種々の生物学的プロセスの調節で重要な役割を果たしているものです(日本薬学会用語解説)。
**シャペロン(chaperone)とは、タンパク質を正しい過程に従って折りたたまれるのを誘導するタンパク質の総称(https://numon.pdbj.org/mom/32?l=ja)。
2.Dewpoint社TDP-43 Modulator (Small Molecule Condensate Modulator)について
本年2月1日付け、ALS専門情報、[ 米国・スイス・オランダ ]TDP-43 タンパク質を標的にした新しい治療法が次々に登場にて、米国Dewpoint社がコンデンセート創薬技術を活用し、病原性TDP-43凝縮体を修正する目的でデザインされた低分子化合物について報告しています。ここでも参照されていますが、2026年1月8日付け同社からのニュースリリース:Dewpoint Therapeutics Announces TDP-43 Condensate Modulator Development Candidate for Treatment of ALS and Related Neurodegenerative Diseasesにて、同社は開発候補化合物を選定したことを発表しています。選定された化合物は、凝集体に直接作用し、細胞や動物モデルにおいてTDP-43の機能を回復させたことが報告されています。今後は新薬臨床試験開始申請に向けた試験を開始するとともに、臨床開発の戦略、治験設計のためのALSコミュニティーとの連携を続けていくとしています。
田辺ファーマは、2024年12月5日付けニュースリリースにて、ALS治療薬を対象にDewpoint社とコンデンセート創薬技術を活用した低分子薬(TDP-43 condensate modulator)創製を目的とする共同研究契約を締結したことを報告しています。本契約条件にもとづき、田辺三菱製薬はDewpoint社に前払い金を拠出、マイルストンを達成した場合は、別途、ライセンス契約を締結し、田辺三菱製薬は臨床開発及び商業化について全世界で独占的に実施するオプション権を得ることを報告しています。
2026年9月4日 橋口 裕二@P-ALS
「ゆめばす」だれもが行きたい場所に行ける社会の実現