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[ 米国・日本・スウエーデン・英国 ] 今、ますます注目されるミトコンドリア

 

ミトコンドリアの障害は、ALSの発症や病態進行を促す極めて有力な原因の一つとして近年世界中で幅広く研究されています。 運動神経細胞(運動ニューロン)は非常に多くのエネルギーを必要とするため、細胞内の「発電所」と呼ばれるミトコンドリアに大きく依存しています。 発電所の機能不全が起きると、神経細胞が維持できなくなり神経変性・死滅へと向かいます。

読者もご存じのようにALSは単一の原因で起きるわけではなく、様々な異なる発症経路が存在し、複数のプロセスが絡み合う非常に複雑な疾病ですが、「ミトコンドリアの異常」は多くのALS病型(孤発性・家族性問わず)に共通して見られる特徴です。 そのためALSはミトコンドリア疾病グループの中にも含まれても良いとする研究者もいます。 ミトコンドリア障害がALSを引き起こす、あるいはALS進行を早めるメカニズムとして現在理解されているものには下記のようなものがあり、多くの論文で記述されています。

メカニズムの種類

  • エネルギー(ATP)の枯渇
    ミトコンドリアの生命活動に必要なエネルギー分子(ATP*)を作る能力が低下し、運動神経細胞が深刻なエネルギー不足に陥る。 * アデノシン三リン酸
  • 酸化ストレスの増大
    機能不全に陥ったミトコンドリアから、細胞を傷つける活性酸素(ROS)が大量に放出され、神経細胞に強い酸化ストレス(ダメージ)を与える。 
  • カルシウム恒常性の破綻
    ミトコンドリアは発電所としての役割だけでなく、細胞内のカルシウム濃度を調節する役割も持っており、この機能が壊れることで、グルタミン酸による「興奮性細胞毒性」を誘発しやすくなり、神経死を加速させる。 
  • ALS原因遺伝子との直接的な関与
    家族性ALSの原因遺伝子である『SOD1』『TDP-43』『FUS』などの異常タンパク質がミトコンドリアに蓄積・吸着し、その構造や機能を直接破壊する。
  • 損傷ミトコンドリアの排除・形態維持
    ALSの原因遺伝子(TBK1やOPTN、σ1受容体など)が、傷ついたミトコンドリアの適切な分解(オートファジー)や、ミトコンドリアの断片化を防ぐ仕組みに深く関わっている。 

このようにミトコンドリアの障害はALSの主要な病因であったり、あるいは病態が進行する過程での第二段階の病因となっていると考えられています。 米国ネブラスカ大ではミトコンドリア内で品質管理の任務に携わるOma1という酵素について研究がなされています。 この酵素は過剰なストレスを受けたミトコンドリア、あるいは損傷を受けたミトコンドリアを調節する役目があり、ミトコンドリアの健康な機能を保つ上で重要なものとわかってきています。

キャプション和訳: カリモンチュク氏は、今後の研究でこうしたケースにおけるOma1を活性化させる方法が特定されれば、神経変性疾患に対抗しうる治療介入が可能になるかもしれないと述べました。

「私たちは今、ミトコンドリア研究の復興を目の当たりにしています」とカリモンチュク氏は語りました。「一見すると治療不可能に思える多くの疾患の背後に、ミトコンドリアの機能不全が潜んでいる可能性があるということが、人々に理解され始めているのです。」

世界中の研究施設でミトコンドリア機能改善研究が進行されている中、最近の日本からの発表は欧米でも大きな注目を浴びています。 その一つが、東北大で開発されたMA-5という低分子化合物です。これについては今月掲載の世界ニュースで日本のレポーターによりすでに情報提供がされています。 この化合物を使って現在ミトコンドリア疾病患者対象に(注意: ALS患者ではなく)臨床試験がなされています。 フェーズ2の臨床試験で、2週間にわたるダブルブラインド(二重盲検)で100人のミトコンドリア病患者が参加 今年の12月には終了する予定となっています。

そして今月”世界ニュース”に紹介されましたように、今年の9月には東北大学や京都大学などの共同研究チームがそのMA-5を用いて今度はALSを対象として実施した実験結果を発表しています。ALS患者由来iPS細胞実験やショウジョウバエの実験で、ALS病態改善効果が報告されています。 MA-5はMitochonic Acid 5(ミトコニック酸5)の略名で、それを運動神経細胞に与えることで、その細胞のATP産生や運動機能を改善させたというものです。 

東北大学のサイトによりますと、MA-5は、インドール-3-酢酸アナログの化学ライブラリーのスクリーニングを通じて、東北大学の研究者らにより同定、開発された化合物で、ヒト肝細胞癌細胞株Hep3Bにおいて細胞内ATPレベルを上昇させる能力を持つことから選定されたとのことです。 MA-5はミトコンドリアを標的とするものであり、ミトコンドリア内膜相互作用構築システム(MINOS)の構成要素であるミトコンドリアタンパク質ミトフィリン(Mic60とも呼ばれる)に結合します。これにより、ATP合成酵素のオリゴマー化およびスーパーコンプレックス形成が促進され、電子伝達系が障害された条件下であっても、局所的なATP産生が増強されるという報告がなされています。 

ミトコンドリア機能障害は、ミトコンドリア疾患*だけでなく、難聴、アルツハイマー病、フレイル、ALS、FTD、パーキンソン、痴呆症など幅広い疾患や状態において認められるため、その治療薬は広範な効果を発揮すると期待されています。

* ミトコンドリア疾患とは、MELAS(ミトコンドリア脳筋症)、 MERRF(ミオクローニス性てんかんとラギッド・レッド繊維)、リー症候群、カーンズセイヤ症候群、CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)、LHON(レバー遺伝性視神経症)、 バース症候群(心筋症)、アルパーズ症候群(神経変性症、発作、肝臓疾患)などがあります。 

またネズミの実験では心臓や腎臓の機能改善、そして難聴の改善も認められ、サバイバル率を強化したとのことです。このように、ミトコンドリアの障害を標的としたアプローチは、原因遺伝子の違いを超えて、家族性・孤発性の両方のALSに対して、広く効果を発揮するALS治療戦略として大きな期待を集めています。 

MA-5 differs from existing drugs that act on mitochondria; it is a novel drug that alters the mitochondrial cristae to produce ATP and holds potential for application across a broad range of diseases.

Provided by Tohoku University

キャプション和訳:MA-5はミトコンドリアに使われている既存の薬剤とは異なるものです。 MA-5はミトコンドリアのクリステを変化させてATPを産生する新規薬剤であり、幅広い分野への応用の可能性を秘めています。東北大提供

https://sj.jst.go.jp/news/202601/n0119-01k.html

https://www.amed.go.jp/news/release_20260924.html

その期待をさらに支持、強化する研究結果がストックホルム大学と英国キングズカレッジの共同研究でも発表されています。 Nature Communicationsで2025年に発表された論文によりますと、ALSを引き起こす異なる遺伝子変異(FUS変異とTARDBT変異) がかなり初期の段階で、共通の毒素であるミトコンドリア障害を持っているということが判明されました。しかもそれは毒素であるタンパク質の凝固などが起こるかなり以前のことなので、バイオマーカーにもなり得ます。  ここでは、「かなり以前」という言葉が重要です。 その意味は、ミトコンドリア機能が失われ初めていく段階、初期段階での物質輸送破綻という共通の経路への介入が可能となり得るということを意味しています。(共通の経路収束)

https://www.nature.com/articles/s41467-025-59679-1

これらの研究報告は、遺伝子変異の種類を問わず、また家族性、孤発性を問わず、多様な病型のALSを対象としての単一の治療法があり得ることを示唆するものとして、ALS学界に眩しい光を投げています。 またミトコンドリアの機能障害はALSだけでなくFTDやパーキンソン、その他の神経変性疾患にもみられる病態なので、その他の神経変性難病の分野でも注目されています。 この治験の重要性については米国のいくつかのALSニュースオンライン誌でも言及されています。特に希望を持たせる点は、 早期介入の機会が得られるという可能性です。 細胞死や臨床症状が現れる前にミトコンドリアの損傷を特定することで、治療介入が可能な時期を疾患のより初期段階へと前倒しできるという可能性です。 ミトコンドリアについてはこれからニュースがたくさんの飛び交うと予想できます。 

2026年10月18日 報告者:  伸子シュルー (Nobuko Schlough) @p_als  米国在住 

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